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糸魚川で働きたくても働けない。女性の選択肢を増やす。日本社宅サービスと糸魚川市における“新しい働き方”への挑戦

2024年2月2日

  • #地域共創WORK SHARE PROJECT
  • #自治体・地域の支援機関インタビュー

育児・介護などの事情により柔軟な働き方を求めているものの、希望する働き方が実現できない女性が数多く存在する新潟県糸魚川市。

大手企業を中心に顧客を抱えBPOに適した業務設計に強みを持っているものの、人材不足が課題となっている日本社宅サービス株式会社。

両者の強みを活かすことで、働き手と企業の支援につなげられればと、2023年3月「多様な働き方推進に関する連携協定書」を締結し、働きたくても働けない人材が参画できる「BPOサービス」の業務運営モデル(糸魚川モデル)を共同開発しました。

本事業の受託団体として『一般社団法人キャリアステージいといがわ』を設立。現在では、子育てや介護などを理由にフルタイムで働くことが難しい人や、他の仕事とのダブルワークを考えている人にとって、時間にとらわれない柔軟な働き方が実現可能となっています。

今回は糸魚川市商工観光課企業支援係()の久保田直子さんにお話を伺いながら、糸魚川市と日本社宅サービス株式会社が協議を開始した背景、そして実際に『一般社団法人キャリアステージいといがわ』で働くワーカーさんの様子についてご紹介します。
※部署等は取材当時のものです。

糸魚川で働きたくても働けない。 女性の選択肢を増やしたい

― まず最初に糸魚川における「働き方」の課題について教えてください。

久保田さん:糸魚川は古くから、ヒスイや石灰石等の鉱物資源が豊富に産出され、これらを活かした建設業や鉱工業が発展してきました。そうした産業が糸魚川の誇りであることは大前提として、ただどうしても女性や若い人が希望する仕事の選択肢が少ないのも現実です。行政としては今後さらに建設業や鉱工業を拡大・発展させていくことと同じくらい「女性や若者の働き方の選択肢を増やす」ことも重要だと考えています。

― なるほど。実際に課題を感じた場面やエピソードはありますか?

久保田さん:糸魚川の高校生や大学生、特に女の子は「糸魚川で働きたい、地元に帰りたい。けれど、働く場所がない。仕事がない」と言っています。そうした子たちが市外に出てしまったり、上京したまま帰って来れなかったりするのは残念だなと思いますね。私にも娘がいるので難しい現実をひしひしと実感します。

― 糸魚川での生活を希望しているのに、仕事を理由に帰ってこられない、離れざるを得ないのは悲しいですね。

久保田さん:そうなんです。もちろん夢を追いかけて上京したり、広い世界に飛び立つことは心から応援したいと思っています。私自身も進学を機に上京したことで糸魚川の良さを実感しました。やはり離れてみてわかることってあると思うんです。 その上で、大事なのは「帰りたい」と思ったときに安心して帰ってこられること。「糸魚川で働きたい」と思ったときに、やりたいことや自分らしく働くことを諦めずに生活ができることですよね。そうした選択肢を用意することは、地域を次の世代に残していくためにも重要なことだと思うんです。

― 久保田さんの「選択肢を増やしたい」という熱い想いが伝わってきます。

久保田さん:一番の原動力は、やはり子どもたちですよね。娘と同級生の子たちの顔が思い浮かびます。あの子たちが、進学を機に一度糸魚川を離れて、そのあと帰ってこられる場所はあるのかな……。あの子たちが帰ってきてくれたら、すごく賑やかで楽しいのにな、と。 そしてそれは、他の世代も同様です。新卒だけでなく、中途でUターンを希望する人たちが、都会で培った力を持って帰ってきてくれたら、どんなに頼もしいか。糸魚川に仕事の幅・柔軟な働き方の選択肢が増えれば、地域はもっと活性化すると感じています。

日本社宅サービスとの出会い。 時間にとらわれない働き方を実現

― そうしたなか、日本社宅サービスとの取り組みが始まったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

久保田さん:新潟県東京事務所から日本社宅サービスさんをご紹介いただいたのがきっかけです。糸魚川市では、2019年から拠点型のテレワークオフィスを開設して、時間に柔軟な働き方を求める方に向けて、その環境を提供してきました。そんななかで、なかなかうまくいかないのが、安定的な業務をいただくこと。東京事務所の皆さんはその状況を承知してくれていて、日本社宅サービスさんとマッチングしてくれたんです。折しもオフィスマネージャーを中心として法人設立を試みていた大切な時であったこともあり、コロナ禍ではありましたが、すぐに上京しました。実際にお打ち合わせをした際、担当の髙橋さんが熱心に糸魚川の課題に耳を傾けてくださったのが印象的でした。 その後も、今度は雪降る中の糸魚川で、次は残暑厳しい中、と何度か来市いただき、取り組みの目的をお話するなかで、髙橋さんが「糸魚川の皆さんのキャリアや働き方の可能性が広がる取り組みをしましょう!」と前のめりになって一緒に考えてくださって。嬉しかったですね。市内だけでは難しいことも、都心の企業の力があれば現状を変えられるかもしれない。口にすれば協力してくれる人はいるんだと、とても心強かったのを覚えています。

― そうだったのですね。

久保田さん:また都心ではBPOのニーズは高まる一方で、労働力不足が深刻と伺いました。それであればお互いに協業をすることで、地域・日本の課題解決にもつながるのではないか。働く人・企業にとっても可能性の広がるビジネスモデルになるのではないか、と話がまとまりました。このような雰囲気が追い風となり、業務受託の受け皿となるべく団体として『一般社団法人キャリアステージいといがわ(代表理事:下越幸二)』が設立されました。それまでの、ワーカーさん一人ひとりが個人事業主として業務受託していた形態から、まずはキャリアステージが受託し、ワーカーさんのスキルや適所を理解する下越(しもこし)代表が、業務に合わせ担当をアサインする形になったのです。このことで、さらに安定感のあるオフィスになったように思います。

― 『キャリアステージいといがわ』では、時間にとらわれない柔軟な働き方ができると伺いました。

久保田さん:そうなんです。2015年の国勢調査で糸魚川市の女性就業率は県内最下位でした。子育てや介護などで「1日3時間しか働けない」「午前中しか出勤できない」といった事情が障壁となり、働きたくても働けない女性がたくさんいるのではないか。それならば時間に縛られない働き方を整えれば、女性が活躍できる場も増えるはず。収入が増えれば子どもを塾に通わせられたり、家族で外食や旅行を楽しんだりもできる。経済の好循環により、雇用が生まれ、地域全体が活性化するのではないかと考えました。

― なるほど。何よりも「女性の働き方の選択肢を増やす」ことを大事にした結果、実現した“柔軟な働き方”だったのですね。

久保田さん:そうなんです。そのため受注する仕事も、残業やノルマを設定しなければいけない業務はお断りさせていただいています。日本社宅サービスさんとの最初のお打ち合わせのときも、その点をご理解いただけたことが大きかったです。仕事のために家庭を犠牲にして子育てや介護ができなくなってしまっては本末転倒ですから。あくまで、自分らしい生き方のためにキャリアがある。その上で、働きたくても働けない女性を支援したい、という目的は揺るぎない指針としてありますね。

糸魚川の女性たちの変化。自信を持って自分らしく生きる

― 実際に『キャリアステージいといがわ』で働くワーカーさんたちの様子についてもお聞かせください。

久保田さん:最初はみなさん、とても不安そうでしたね。子育てでブランクがあったり、パソコン作業に慣れていなかったり。自分にできるのだろうか……と自信がない様子でした。それでも無理のない範囲でシフトに入り一つずつ仕事を覚えたり、ワーカー同士のつながりがコミュニティとして精神的な支えになっていたり、今ではみなさんとても楽しそうです。

― 素敵ですね!

久保田さん:どんどんイキイキした表情になっていくんですよ。自信に満ち溢れているというか。新人の方へのフォローをお願いするとすぐに輪の中に入れてくれて。「私も最初はできなかったよ」と、助け合って仕事を進めてくれているようです。 さらに最近では、仕事と両立をして「個人のやりたい」を叶えている様子も見かけるようになりました。趣味だったハンドメイド雑貨を活かしてマルシェ出店にチャレンジする人、兼業で農家をしながら県内外にお米を知ってもらおうと情報発信をがんばっている人など、多様な暮らしや働き方が実現できているようです。キラキラと楽しそうに糸魚川で暮らす女性の姿を見ると、とても嬉しいですね。

― 働き方の選択肢が増えたことで、人生も好転していく。そんなきっかけが生まれているのかもしれないですね。

久保田さん:仕事もワーカーさんたちが主体的に業務改善に取り組んでいたり、資格取得のための勉強をしてキャリアアップを目指したりと、とても前向きなんですよ。働く環境が楽しいからこそ、前向きな姿勢が生まれるのかもしれないですね。エネルギッシュな姿がとても素敵です。 あとは、自分たちの手で働きやすい環境を守っていく。そんな意識が強いのかもしれません。

― というと?

久保田さん:自分たちが『キャリアステージいといがわ』で実績を積んで、都心の企業様から信頼を得て、安定的に仕事を受注できるようになれば、次の世代にもつなげられるかもしれない。「情報系」「事務系」というキーワードの中で働ける環境があれば「糸魚川に帰ってきたくても、自分が望む仕事がない」とうつむく子どもの未来を変えられるかもしれない。そうした想いもあって、必死にがんばってくれている側面もあると思うんです。

― なるほど……。

久保田さん:都会の企業に就職しなくても、糸魚川に住みながらキャリアアップを目指せる。身につけたいスキルが磨ける。活躍の場がある。それが当たり前になったら、糸魚川の若者の可能性はもっともっと広がると思います。

仕事も家庭も両立できる柔軟な働き方を、糸魚川に広めたい。

― 今後の展望についてもお聞かせください。

久保田さん:キャリアステージの下越(しもこし)さんは、営業中によく「都会で活躍の皆さんは、世界で戦ってください。こちらはそれを支えます」と言われます。素敵な流れだなと思います。日本社宅サービスさんからいただいたお仕事を通じて、キャリアステージやワーカー自身に、「高レベルな知識や技術、そして意識」が届けられ、自然に定着していくこと。これは、今後の地方創生に大きな影響を与えてくれるのではないか‥。最近、そんなことを考えることがあります。 そして、スキルと自信を身につけたワーカーさんたちが、次のステップとして糸魚川の企業にどんどん羽ばたいていってほしいなと思います。その企業の中で働き方改革に取り組んでくれたり、糸魚川で自分らしく働くロールモデルとして活躍してくれたら、若い人や女性が働きやすい企業が増えるかもしれない。さらに言うと、『キャリアステージ』で培ったスキルをもとに起業する女性が誕生する可能性もあり得ると思うんです。

― 最後に、日本社宅サービスとの関係に期待することをお聞かせください。

久保田さん:日本社宅サービスさんとの取り組みが、糸魚川で働きたくても働けない女性や若者の背中を押す最初の一歩になれば嬉しいですね。ずっと求めてきた安定的な業務の提供を心から期待します。

取材・執筆/撮影:貝津美里
撮影場所:クラブハウス美山